
「終活」のミス、書き間違えた遺言の行方(日経より)
昨日、1月7日の日経の記事が話題になっています。
「終活」のミス、書き間違えた遺言の行方
⇒ http://www.nikkei.com/article/DGXMZO80740730Q4A211C1000000/
※この件に関してのコメントは差し控えます。
遺言業務は非常に難しい
件数は少ないですが、当事務所でも遺言の業務は取り扱っています。
一時期「遺言書キット」などプチブームが起きましたがそんなにライトに考えることじゃない、と私は考えています。
10年ほど前、叔父が自殺したときに「相続」を目の当たりにしました。
司法書士を目指して間もなかった私ですが、「法律の建前」というものが現場ではまったく役に立たなかったことを今でもハッキリと覚えています。
相続人同士もめたわけではないのですが、「死人に口なし」というものを強く感じたしだいです。
人の死をビジネスにするというのは本当に難しい。
ときに「ひとでなし」扱いを受けるほどです。
私がそこまで相続の専門性を謳わないのもどこか気が引ける思いがあるからです。
社会にとって必要なことなので相続の専門性を謳うことが悪いとは当然思っていません。あしからず。
遺言を業務にする難しさ。
それは遺言書を作ることが目的ではないからです。
遺言書も、残された相続人や受遺者(遺言によって贈与を受ける相続人以外のひと)がどうなってほしいのか、それを実現するための手段でしかありません。
そして、難しくさせる要因がもうひとつ。
遺言書の作成を依頼する人と遺言書に基づいて動くひと(例:相続人)が違うということです。
遺言を残したひとは信頼して司法書士に依頼したかもしれませんが、それがすなわち相続人もその司法書士を信頼するかといったらそう話は簡単ではありません。
相続人が自分にとって不利な、気に食わない内容の遺言書だったら協力しないこともあるわけです。
しかし、遺言者はすでに天国へ。時すでに遅し。
相続人に遺言者本人から真意を伝えることは叶いません。
遺言書を作るだけなら難しくない業務かもしれません。
しかし、遺言者の真意を汲み取らないまま作るのは危険です。
相続税や遺留分を考える前に遺言者の真意を考えるべき。
というのが私が遺言書を作成する際の最低限のスタンスでもあります。
遺言執行者についてもそう。
※遺言執行者とは、遺言書の内容を執行する相続人の代理人のことです。相続人の代理人として相続手続きを行います。
遺言執行者として専門家の名前の記載のある遺言書を見ると、ちょっと不安になります。
だって遺言者が亡くなったとき、そのひとがすでに仕事を辞めていたり、万が一先に亡くなっていた場合どうするのだろうかと。
お互いそこまで考えているのだろうかと。
遺言や成年後見は司法書士にとって重要な業務ではありますが、「お金になる」「ビジネスチャンス」というスタンスでとりかかるといずれ痛い目に遭うと個人的には思います。
依頼する側の気持ちに立てば当然かとは思いますが。
もし自分が生前に相続を意識するなら
何の資産もないのでそもそも残すものもないのですが…。
生前に遺産分割協議をします。
つまり、妻、長女、長男そして私。
4人で私の遺産について協議をする。
法的効力とかどうでもいいのです。
大切なのは残される人間が納得して相続するかだと思うので。
結局なぜ争いになるかというと「伝えないから」だと思うのです。
もしくは「伝わってない」か。
争いになると自分に都合のいい解釈しかしない傾向にあります。
「天国の父ちゃんが見てたらどう思うか、ううう」
という気持ちになることもあります。
いつ死ぬかなんてもちろんわかりませんが、いつ死んでもいいように「自分が死んだらこうしてほしい」ということだけでも伝えておく必要があるんじゃないでしょうか。
「死人に口なし」
残されたほうはあれこれ考えますが答えは100%出ません。
「うちの叔父も遺言書のひとつでも残してくれていたら…」
とは今でも思います。そもそもなぜ自分で死を選んだのか、その理由がわかりませんから。
法的効力のある遺言書ももちろん大事ですが、法的効力のない方法でもいくらでもあります。
正しいとか効力のあるとかにこだわる前に、自分が生きているうちに「争族」にならない努力をしましょう。
ちなみにここまで書いておきながら私は全然やっていません。
明日から4年ぶりに家族で実家のある宮城県栗原市に帰省します。
新幹線の中で話してみようと思います。娘5歳、息子3歳だけど。
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